今回は『発達障害』についてのレポートです。
駿英家庭教師学院の専任講師で『発達障害』のカウンセリング&指導を積極的に取り組んでいる高橋先生の記事になります。
突然ですが、問題です。
ある日、福美さんの部屋で、福美さんと島子さんが、二人で勉強をしていました。途中で福美さんは、お母さんに呼ばれて、使っていた鉛筆と消しゴムを自分の筆箱に入れて、部屋を出て行きました。その間に、島子さんは、福美さんの筆箱から、鉛筆と消しゴムを出して、福美さんの机の引き出しに入れました。やがて部屋に戻った福美さんは、勉強を再開するために、鉛筆と消しゴムを出そうとしました。さて、福美さんは、どこを開くでしょうか?
当然、答えは「自分の筆箱」ですよね。
ところで、この答えを出すのに、①問題を読み終わる前にわかった人。②問題を読み終わった瞬間にわかった人。③問題を読み終わって3秒間以内にわかった人。④問題を読み終わってしばらくかかった人。など様々いらっしゃると思います。
①の人で、わかった途端問題を読むのをやめてしまった人は、ケアレスミスをしがちなタイプかもしれません。
②の人で、もう一度自分の中で確認せずに、答えを決め付けてしまった人は、自信家か、衝動が強いタイプかもしれません。
③の人は、一般に、集団の中でも上手に協調しながら適応できるタイプだと思われます。
④の人は、問題を集中して読めなかった、あるいは、福美さんの立場で考えることが難しかった、などだったかもしれません。
この問題では、福美さんは島子さんが鉛筆と消しゴムの場所を変えたということを知らない、ということに気が付かなければ正解できません。他の人の立場で考えることができるかどうか、これを「心の理論」といいます。
集団生活の中で、多くの人は、無意識に「心の理論」の機能を活用しています。しかし、それが困難な人達も意外に多くいるのです。そして、それが、周囲の人々にも、本人にも、何とも言えない違和感をもたらす事があります。集団への適応がうまくいかない場合、直接のきっかけだけでなく、その根底に積み重なっている、お互いの違和感の原因を探る必要があります。
ところで、上記の問題ですが、これが、文字で書かれた問題ではなく、口頭で尋ねられた問題だったとしたらどうでしょうか?
文字で書かれた方が理解しやすいという人は、どちらかというと視覚優位ですね。口頭で尋ねられた方が理解しやすい人は、聴覚優位かと思われます。
情報は、様々な感覚器官から、神経を通して脳に入っていきます。一人一人、感覚器官の働き方が異なります。学習方法も、効果を上げるためには、その人に合った方法があるのです。それを見つけ出すことも重要になってきます。
一人一人、脳の発達の仕方は異なります。その異なり方は、個性とも言えるものです。しかし、社会の中で生きていくにあたって、うまく周囲と調和して生活していくのが困難な程、脳の機能の発達にアンバランスがある場合もあります。
最近よく話題にされる「発達障害」という言葉、お聞きになった方もいらっしゃるかと存じます。アンバランスさが、ある程度の標準範囲であることを「定型発達」と言います。「定型」でない発達を「非定型発達」と言います。「非定型発達」には、「発達の遅滞」・「発達のアンバランス」があります。「発達の遅滞」は、一般的に、少し会話をしたり、言動を観察すれば、周りの人もすぐにわかります。
しかし、「発達のアンバランス」に関しては、表面上目立つことが少なく、専門家でも診断に苦慮する場合もあるほどです。
本人は、幼少の頃は、全く自分に違和感を感じません。しかし、成長に従って、「自分は他の人とどこかが違う」となんとなく感じてき始めるケースが多いようです。しかも、周囲の友達もほぼ同じ年齢集団なので、「大人の対応」がしてもらえず、本人に悪気がないのに、何気ない一言で大きなトラブルになってしまったりして、不登校やうつ状態に陥ってしまうことも多々あります。
問題は、本人に自覚が無いので、教師や保護者に、困り度を上手に伝えられないところです。一つ一つの問題に対処することはある程度可能ですが、根本に、「発達障害」が潜在しているとは気が付かれず、表面に出てきた問題の解決だけになってしまうことです。結果、原因は残ったままなので、似たような事の繰り返しが多くなってしまいます。
「発達障害」は、先天的なものなので、本人のわがままや、育て方の問題などとは違います。現在のところ、「障害」を根治させる方法も確立されていません。
しかし、本人にとっても、社会への適応がし易く、生き方が楽になったり、周囲の人達にとっても、対応の仕方がわかったりすることは充分に可能です。それは、専門家の診断を受け、アドバイスを伺い、必要に応じてカウンセリング・薬などを処方してもらうことです。現状では、専門家も少なく、そのような機会を得ることは時間と勇気が必要ですが、本人が、負の経験の積み重ねで自信を失ったり、将来、社会に適応できなくなったりする前に、少しでも早く、療育を決断して頂ければ、と切に願っています。
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